明日が見えたなら  山吹色

彰くんが起きる前の6時に家を出る。出社時間には余りにも早いので会社の近くでカフェイン抜きのコーヒーを飲んだ。

いつもバックに入れている裁縫道具を取り出し、作り掛けのマスコットを縫い始めた。縫い物をしていれば余計な事は考えないで済む。

8時に出社した。自分が一番かと思ったら 直属の沢田 瑞季主任 が先に来ていた。

「おはようございます」

「おはよう、今日は随分と早かったのね?」沢田主任はいつものように、溌剌としていた。

「はい、今日は早く起きてしまったので そのまま出てきました」

「神崎さん、最近体調はどう?」

「夏バテですかね?ちょっと食欲なくて」

「あらー、自律神経が疲れぎみかしらね、 私がよく飲んでるフルーツと野菜のドリンクよ、良かったら飲んで」

「ありがとうございます 」

「どう?新婚生活は?」

「どうですかね、毎日会えることくらいですかね?」

「ちょっとー!もう落ち着いた熟年夫婦にはまだ早いわよ。最近飲み会やっていなかったわね、近いうちに行きましょうか?」

「すみません、私 今アルコール控えていて、ご飯もそれぼど食べれないので…」

「ならさ、胃にやさしいお鍋はどう?」

「それなら大丈夫かも知れません」

「来週中にいくわよ!」

「はい 楽しみにしてますね」

水曜日は病院だった。 退社後に受診した。心臓が動いている事を祈っていたが、確認出来なかった。不安が募る。

 いつもより帰宅時間は遅くなったが、まだ彰くんは帰宅していなかった。
‘’良かった‘’

 冷凍していた作り置きを取り出していると彰くんが帰宅した。

「ただいま」

「おかえりなさい、私も帰って来たばかりでまだ夕食出来ていないのごめんね」

「いいよ、それより体調悪いのか?」

 ハグをしながら私の顔を覗き込んで言う。

「大丈夫だよ」頑張って微笑んだ。

「無理するなよ」頭上にキスを落とされた。

「うん」

「着替えて来るから一緒に支度しよう」

「うん、ありがとう」

 着替えてきた彰くんと夕食の支度をした。

 一緒に食べるが、今日は特に食欲がなかった。下手に誤魔化す事が出来ず素直に
「やっぱり調子悪いみたい」と彰くんに伝えた。

「どんな症状なの?」

「少しだるいだけだから」
‘’まだね、心音が聴こえないの‘’

「病院へ行ってみれば?」

「もう少し様子を見てからにする」
‘’行ってるよ‘’

「そうか?」心配だな。


「片付けはやるから、お風呂に入って早めに休めよ」

 心配してくれてる。素直に甘える事にする。

「ありがとう」とリビングを出て行った。


  彰くんが心配して声を掛けてくれたが全てを打ち明けることが出来ない。

 誰か好きな人が出来たかも知れない。誰かと会っている、別れるかも知れない彰くんに何をどう打ち明ければいいの?この不安伝えていいの?こんなにも近くにいるのに話せなかった。

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