明日が見えたなら  山吹色
畝雲

綾乃に言われて気になったので、生理予定日から2週間たってから市販の検査薬を試すと陽性だった。嬉しかった!

彰くんに話そうと思ったが、病院で診察してもらってから報告することに決めた。

 会社を休み病院へ行った。

「おめでとうございます。妊娠6週目くらいですね。まだ心臓の動きが確認出来ないのが気になりますが次回の受診の時に確認出来ると良いですね」

産婦人科の先生の言葉に、無知な私は不安も感じずにこの幸せに浸かっていた。



神崎 彰汰 と結婚し、旧姓 竹内 から
神崎 七海 になって半年 。

やっと授かった赤ちゃん、 彰くんにどう報告しようかな? 喜んでくれるよね?来年の春には 私達、パパとママだよ!赤ちゃんに逢えるんだよ 。

《お疲れ様 今日は早く帰って来れる?》

早速連絡を入れた。ご馳走作ろうかな! 張り切って彰くんの好きなメニューにして、なんて浮かれていたら、ケータイに連絡が届いた。

《 ごめん 遅くなる 今日飲み会が入った 夕飯要らないから よろしく! 》

《 了解! 楽しんで来てね 》

そう返信したけど、やはり寂しいし、虚しい……本当に飲み会だけだろうか?

テンションは下がり、日射しは暑いのに、心体は冷えていくようだ。

諦めて、帰宅を待とう。そして赤ちゃんの事を伝えよう…
 お祝いの気分に浸りたくて駅前のフルーツが沢山のったプリンアラモードを2個買う。


カチャ

やっと帰ってきた! もうすぐ日付は変わろうとしている。この時間ではプリンアラモードは無理だな… でも伝えよう。

「 おかえりなさい 」と言いながら抱きつく。

「 ただいまっ まだ寝ていなかったのか? 寝てていいのに」私を見下ろしながら笑みを返してくれた。

それは嬉しい、嬉しかった 。
でもやっぱり?スーツからはアルコールの匂いの他に甘い香りがする。

脳裏に横切る最近の変化、彰くん浮気しているの?

「 今日は昼に野田と会ったら、同期で呑もうってなってさ 」ネクタイを外しながら言う。

「 いつものメンバー?」

最近感じていた違和感!わかった!指輪してない!脱力しそうになる…それにいつものメンバーなのに、この甘い香りは何故?

「そうだよ」

「ふーん……最近飲み会多いね」

「そうかな?まぁ続いてるな、たまたまだよ。暑気払いもあったしな」

強ばっている顔を隠すため彰くんの胸に視線を向けた。

 見つけてしまった、シャツに付く長い真っ直ぐな髪の毛。私はくせっ毛だ。

彰くんに触れたくない。

 まだ確証がある訳ではない。でも今は信じようと頑張れる気がしない。

 髪の毛一本でもこの部屋に存在することが凄く嫌だ。
 
「ちょっと汚れているよ」

 コロコロを手に持ち、彰くんの全身に転がした。

 髪の毛の付いた汚れたシートを剥がしてゴミ箱へ捨てる。

「 もう寝ようとしていたんだ、だからおやすみなさい 」キスをされないうちに逃げるように手を洗ってから寝室へ入る。

「あぁ…おやすみ」

眠気なんて無い。でも顔を見たくないし見られたくない。

  今日は2人で喜びを分かち合う日だったのに…。

どうして指輪していないの?どうして甘い移り香がするの?何しているの?

ベッドに入っても寝れるわけない、彰くんが入ってきても、寝た振りをする。

 私を気にするような気配はない。私なんて素通りだ。

すぐにイビキが聞こえてきた。

 あの髪の毛が誰のものかわからない。電車でぶつかったのかも知れない。でももしかしたら……拭えない不安。

 なんでこんな日になったんだろう。

病院で診察を受け妊娠が確実となっても、今となっては彰くんに伝えるタイミングを完全に見失ってしまった。

赤ちゃんが出来て嬉しいのに、自分の今の立ち位置に自信を失って行く。

もし結婚するのがあと半年遅ければ、もし、もっと早く中学時代の同窓会があれば、私達の未来は変わっていたのだろうか?

 もしかしたら別々の道を歩んでいたかも知れない。

今週は私が密かに名付けた『きっかけ記念日』だ。週末には彰くんとあのカフェに行けたらいい。

 行けたらまた頑張れそうな気がする。

プリンアラモードは結局翌日に一人で食べた。
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