ドキドキするだけの恋なんて

それから タケルは 頻繁に 電話を掛けてきた。


その日の出来事とか 仕事の愚痴とか。

他愛のない話しを するだけの電話。


どういう つもりなの…?

もう私は 恋人でもないのに。



「もしもし~?」

私の 呆れた声も 気にならないのか。


「あず美って 何の仕事してるの?」

「N商事って 言ったでしょ?」

「だからさ。そこで 何やってるの?」


「総務課。」

「プッ。総務って…笑」

「何が 可笑しいのよ?」

「ううん。あず美に ピッタリだなって 思って…」

「悪かったわね。どうせ私は 面白味のない 総務向きですよ。」


「いや、そうじゃなくてさ。あず美って 気配り上手で。平等に 回りが見えるだろ?総務には そういうの 必要だからさ。」

「何よ。今更 急に褒めて…」

「今更って。俺は あず美のこと ちゃんと 理解してたからね。」


「へぇ…それで 私は フラれても 大丈夫だから 別れたんだ?」

「えっ?俺は フッてないよ?あず美から 離れて行ったんじゃん?」


「あのねぇ。タケルが 雅代さんと 別れられないって 言ったからでしょ!」

「でも 俺。あず美とも 別れる気 なかったんだ…」

「はぁ!何言ってるの?黙って 二股に 我慢しろって?」


「二股とか 言うなよ。浮気みたいなもんだったのに。雅代が 煩く騒ぐから。納得するまで 様子みようと 思ってただけだよ?」

「だから それを二股って言うのよ。とにかく 私は 二股されても 平気でいられるほど 寛大じゃないんで。」



タケルは 何を考えて 私に 電話をしてくるのか。

私には タケルの真意が わからない。



知らず知らずに 電話を待ってしまう私。


ああ…また 私は 迷子になっている。







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