あなたの左手、 私の右手。
「こちらにどうぞ。」
社員の人から勧められた席は私と先輩が正面合って座る席。
「隣同志でも構いませんか?」
先輩がすかさずに聞いてくれる。

「申し訳ありません。社長の指定席なもので。何とか黒川さんの席は正面にもってきたのですが。」
社員の人の耳打ちに、黒谷先輩が少し困ったような顔をしてから私に指定された席に座るようにアイコンタクトを送ってきた。

大丈夫。先輩が正面にいる。
そう言い聞かせながら私は先輩の正面の席に座った。

こういう接待と呼ばれる席も私にとっては初めてだ。
ふと正面に座っている先輩と目が合う。

『大丈夫』そう確かに先輩が口を動かし言ってくれたのを見て、私は何とか営業スマイルを作った。
きっと私の心情が読めているであろう先輩は、私を見てふっと笑った。
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