あなたの左手、 私の右手。
「大丈夫。大丈夫だ。落ち着け。」
力強い先輩のまっすぐな言葉。

「・・・こわい・・・」
それでも真っ黒などろどろとした過去に引き込まれる。

ホテルのすぐ前にとまった消防車のサイレン、パトカーのサイレン・・・

「怖い!」
耳をふさぎ蹲ろうとする私の体を、先輩は強く抱きしめてくれた。

私の耳をふさぐように自分の両腕を私にまわして、包み込んでくれる。

「大丈夫」
先輩の胸にあてた耳から、先輩の声だけが聞こえる。

全身に先輩の声が響く。

「大丈夫」
何度も何度もそう繰り返してくれた。
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