プラチナー1st-

ひとのもの(3)



なんて恥ずかしいことをしてしまったのか。紗子の頭の中はさっきからぐるぐるとそればかり考えていた。

週明け月曜日。あとひと駅も乗れば会社に着く。オフィスに入ったらきっと和久田と顔を合わせるだろう。その時にどんな顔で会えばいいのだ。

和久田の部屋から逃げ帰ってから、何度となく考えている。あの時、紗子のことをいとおしむようなきれいな顔で微笑んだ和久田に目を奪われた。それは認めよう。だからと言って、あそこで叫んで逃げ帰るとはどういうことだ。何が紗子をそうさせたのか。そう思い出して、額に蘇るあの時の和久田の指の温度。

ほんの……、ほんのちょっと指が触れたくらいで、何を動揺したというのか。そう思おうとしても、あのあたたかさを思い出すだけでまた心臓が走り出してしまって困る。

どきんどきん。心臓が鳴る。降車駅はもう直ぐ。山手線の走る音が途切れないように、紗子の動悸も途切れないように思えた。
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