Romantic Mistake!

「なんですかボス」

「今日親父と葬式行くんだった。取引先の社長が亡くなったって、昨日言われて」

「えぇ!? 何時ですか?」

「三十分後に親父と本社で合流するから、すぐに出なきゃダメだ」

今探していた棚のファイルをバサバサと落としたが、私は戻すのを後回しにしてクローゼットに掛けてある彼の礼服を先に出す。

「もう! なんで早く言わないんですか」

「忘れてたんだよ」

お葬式を忘れちゃダメでしょ!と怒鳴りたかったが、響かない人を叱る体力はもう残っていない。ああ、すでに印鑑を失くすという大問題を起こしているし、この三日間本当に大丈夫だったのだろうか。出社するのが怖すぎる。

ボスは礼服に着替え「後はよろしくな」と出ていった。取り残された私は呆然とし、ゴチャゴチャに散らかったオフィスに立ち尽くす。ひとりでもいいもん、ボスがいたって役に立たないし。むくれながら棚に戻り、作業を再開した。

「きゃっ」

散らばったファイルを戻そうとかがんだところで、またファイルが雪崩になって頭に落ちてくる。続いて転んでファイルの海に突っ込み、体を起こすと最後の一冊がまた頭に直撃した。

「いたたた……」

額を押さえて痛みに耐えているが、じわじわと涙が滲んでくる。なぜこんなに踏んだり蹴ったりなんだろう。
< 76 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop