アオハルの続きは、大人のキスから

 それにしても、久遠の部屋を出た瞬間、すぐにGMの顔になったところはプロだ。仕事中の久遠は、いつもこんなに凜々しくしているのだろう。
 大学生だった彼を知っている小鈴には、感慨深い。

「どうしましたか?」

「えっと、いえ……なんでも」

「なんでもないようには見えませんでしたが?」

 長身の久遠が腰を折り、顔を覗き込んでくる。周りの人からは彼の表情が見えないのをいいことに、ちょっぴり意地が悪い笑みを浮かべてきた。
そして、小鈴にしか聞こえないように囁く。

「なに? 小鈴」

「っ」

「俺に内緒事?」

 久遠の声が、甘ったるい。小鈴は、顔を真っ赤にして首を横に振る。

「……久遠さん、大人になったなぁて」

「はは、十年前の俺しか知らないからな。小鈴は」

 その通りだ。慌てて頷くと、彼はより近づき耳元で囁いてきた。

「これからの俺を、もっと知って?」

「っ!」

 思わず飛び退いて赤い頬を晒すと、久遠は目を見開いたあと綺麗な笑顔を見せる。

「本当、昔から変わらない。かわいい」

「うう……相変わらず、私を弄って楽しんでいません?」

「弄るつもりはないけど。へぇ、小鈴は昔からそう思っていたってわけか」

「え……?」

「じゃあ、もっと改善しないとダメだな。小鈴をかわいがって愛しているって伝えているのに、本人が認識しないようでは意味がない」

 辺りを急いで見回す。二人を気にしている人間は見当たらず、心底ホッとした。

 着物の襟を直しながら、視線をそらす。
 これ以上久遠と一緒にいたら、どれだけ弄られるかわかったものではない。
 背筋を伸ばしたあと、久遠に会釈をする。

「ここで結構です。では、また」

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