呪イノ少女、鬼ノ少女
ずぶ濡れになって、額に張り付いた前髪を掻き上げ嘆息する。


それからゆっくり肩膝ずつ地面について膝立ちの状態になってから、背後の雛子の方を顧みた。

母娘になって十年、この娘はまだまだ子供だ。

それを嬉しく思うも、少し不安に思ってしまう。


―――私は、この子を大人にして上げられるのだろうか。


思い返せば、失敗ばかりの子育てだった。

為にとやってやったことで傷付けてしまったし、鬼祓の仕事で頻繁に村を離れては寂しい夜を過ごさせてしまった。

満足に料理も出来ず、家事はすべて任せきり。

育児方針だって放任主義と言えば聞こえはいいが、実際はどうすればいいのか分からず傍観を決め込んでいただけだった。


ロクな母親ではない。

この子を思うのならば、引き取るべきではなかったのだ。


それでも、不思議だ。

これほど不甲斐なく失態の繰り返しだというのに、茜は少しも後悔していない。

雛子の母親になった事を後悔していないのである。


「この子が気を失っててよかった。あまり情けない姿は見せたくないのよ」

「茜さん」


鬼の腕の中で小さく震える澪に、照れくさそうに笑った。


「師匠」


茜は自身の血が流れ込んだ泥水の中に手を付いて、試すように見下ろしている黒丞を見上げた。


「お願いします。雛子も澪ちゃんも九音ちゃんも、奪わないでください」


そうして深々と額を地面にこすり付けた。


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