もうこれ以上、許さない
隠してたつもりなのに、あたしの気持ち気付いてくれたんだ。
だから、手を握ってくれたんだ…

「っっ、バカ…
それ逆効果」
余計泣きそうだよ。

「なんでっ!?」

「だって…
とっくに10秒過ぎてて、さっそく口だけになってるから」

「あ…
ヤバいヤバいっ、じゃあ早く俺の事待つって約束してっ?」

「もおっ…
前からいくらでも待つって言ってるじゃん。
だから、何度もいうけど急がなくていいからねっ?」

家族と会えなくなるから、名残惜しいだろうし。
たとえ寮を出る日が来ても、ひと足先に他の町で待ってればいいだけだ。

「いや、だからぁ…
同じく何度もゆうけど、俺が待てないの!
マジですーぐ戻ってくるから、もう口だけなんて言わせないよっ?」

「ふふっ、期待しないで待っとく」

「いや期待しとこっ?」


そうして風人は、ちゃんとお世話になりましたの握手っぽく、最後に深々頭を下げて…
この店から、あたしの前から、去って行った。

その瞬間、言いようのない寂しさと焦燥感に襲われる。


だけど、この手にはまだその温もりが残ってて…
離れても寄り添ってくれてるようで…

…ありがと、風人。
ちゃんといい子で待ってるね。
その手をぎゅっと胸に当てながら、そう強く思った。



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