夢の中で私を呼んでいるのはあなたですか?
第17話 解けた呪い
10月から紗耶香の大学の後期授業が始まった。朝は二人とも6時に起床して、身支度を整える。紗耶香は朝食の準備をしてくれる。その間に僕は昨日の洗濯物を洗濯機から出して片付ける。7時前に朝食を二人で食べる。

それから二人で片付けをして、7時30分にはマンションを出る。これより後になると電車が混んでくるので時差出勤、時差通学を心がけている。紗耶香も大学に着いてから時間があるので、その間に勉強ができると言っている。

不思議なことに、二人で同じ夢を見てから、いつも見る夢をぱったりと見なくなった。紗耶香も見なくなったと言っていた。

あれから紗耶香の身体に生気がみなぎるようになった。食欲が出て、食べる量も増えたが、太りたくないと言って、毎日、朝晩に腹筋と腕立て伏せ、それも100回ぐらいはしている。また、大学でジョギングのサークルに入ったとのことで、昼休みと授業が終わってから毎日ジョギングとストレッチをしていると言う。

それで、身体は一回り大きくなったように見えるが、体形は締まっていて健康的で輝くような美しさがある。ジョギング中にすれ違った男に振り向かれることもしばしあるという。その方がちょっと心配になる。

家事も全く問題なくこなしてくれている。ゆとりのない給料の中でやりくりしてくれる。僕が家に帰るのは8時前後になる。家に帰ると笑顔で迎えてくれて、おいしい夕食を作っていてくれる。優しい性格もそのまま。幸せな生活が続いている。

夜の生活はいろいろ工夫しているが、紗耶香は恥ずかしがりながらも受け入れてくれている。快感も増しているようだ。

帰宅すると、紗耶香が玄関までとんで来る。

「おかえりなさい。食事にします? お風呂にします? それとも、紗・耶・香?」

「ただいま。どうしたの?」

「テレビで言っていたのを聞いて、私も言ってみたくなって」

「本当は紗耶香だけど、お腹がすいた、食事でお願いします」

「紗耶香でよかったのに」と残念そうに言う。

「心の準備ができていなかった。明日は紗耶香でお願いします」

他愛のない会話だけど、こんな毎日が続くといいな。

次の日、帰宅すると、また紗耶香が玄関で言う。

「おかえりなさい。食事にします? お風呂にします? それとも、紗・耶・香?」というので「今日は、紗・耶・香!」と言って、抱きしめて、そのまま愛し合う。

ぐったりしたところをお姫様抱っこしてリビングのソファーまで運ぶ。そのままにして、僕は寝室へ着替えにゆく。

リビングに戻ると、「今日は、紗耶香にしてくれて、ありがとう」といって、もう元気になって食事を準備している。

結婚したてのころなら、きっとまだぐったりとしているところだが、最近は元気活発、呪いがすっかり解けている。気を付けないとこちらが生気を吸い取られそうだ。

◆◆◆
それから、お正月に二人で金沢に帰省した。紗耶香は母親と電話やメールでの連絡はいつもしているので、結婚前よりも元気になった様子は母親に伝わっている。母親は実際に会うと、それが実感できたようで、とても喜んでくれた。

紗耶香が健康で元気にしているのを見て、母親は安心したみたいだったが、紗耶香が席を外したときに、22歳の誕生日までは気を付けてくださいと念を押された。母親には二人が同じ夢を見た時の話はしておいた。

◆◆◆
思っていたとおり、紗耶香の呪われた21歳は幸せな生活の中で難なく過ぎ去った。やはり二人同じ夢を見たあの時に呪いが解けたようだ。それから夢も見なくなっている。

紗耶香は無事、22歳の誕生日を迎えた。小さなケーキを買って二人でお祝いをした。そして、22歳の誕生日までは紗耶香に話さないでくれと言われていた、檀那寺の前住職の悲劇の姫君の話を聞かせた。

また、紗耶香の母親が家系図を調べた話をした。母親によると、山本家の本家に行って家系図を見せてもらったら、今から600年位前の代に「紗耶香」という姫がいたことが分かり、又従兄またいとこに「昌弘」という男子の名前があったとのことだった。

「昌弘さんとはやはりあの同じ夢で結ばれていたんだわ。あの交通事故の時、私はお兄ちゃんの顔を見ていたの。前にも会ったことがあるような気がして懐かしかったから。突然、手を引っ張られて驚いたけど、命拾いした」

「その時から、僕には『さやか』という名前が胸に残った」

「家庭教師の先生になってくれた時、それがあの時のお兄ちゃんだと分かってとても驚いたけど、どういう訳かすぐにお嫁さんになりたいと思った。そのためには高校に合格しないとだめだと思って一生懸命に勉強しました」

「就職して東京に来たけど、紗耶香のことがずっとどこかに残っていた。帰りの列車が隣の席になって本当に驚いた」

「あの夢が続いて本当によかった。それでまた命を救ってもらえた。夢が途切れていたら今日の日はなかったと思います」

「今度帰省したら、檀那寺にある山本家の本家のお墓に二人が結ばれたと報告に行こう」

「はい、是非そうしましょう」

紗耶香が抱きついてきた。


遠い夢で結ばれた恋のお話はこれでおしまいです。めでたし、めでたし。
< 17 / 17 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:1

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

表紙を見る
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop