雨の巫女は龍王の初恋に舞う
「里に行った時に、舞を見せてくれたな」

「はい」

「幾人もいた巫女たちの中で、お前だけに目が惹かれた。黎安に帰ってきてからもお前のことがずっと頭から離れなかったが、その頃の俺には理由がわからなかった」

 その時に芽生えた気持ちを、龍宗は理解することができなかった。それは、恋を知らなかった龍宗の初恋だった。自分の感情の名も知らず、ただ、璃鈴が欲しいとの思いだけが龍宗の心を占め続けていた。


 自分の気持ちがわからなかった龍宗は、慣れない感情に戸惑った。婚儀の前日、いてもたってもいられず璃鈴に会いに行くも、その姿を遠目に見るだけで動揺してしまい、声もかけられなかった。自分の行動に対する羞恥から、婚儀の席で璃鈴にはひどい言葉を吐いてしまった。それを龍宗は今でも悔いている。

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