雨の巫女は龍王の初恋に舞う
 それは一番後ろにいた、線の細い少女だった。なぜか龍宗は、その娘から目が離せなくなる。

 優雅に羽扇をはためかせて天を仰ぐ仕草。小さく赤い唇。白い頬。娘がくるりと回れば、絹にも似た滑らかな黒髪が跡を追う。その髪の色と同じく大きく潤んだ瞳。

「あの娘はまだ子供なのであの色をしているのです」

 唐突に言われて、龍宗はその年寄りを振り返る。彼は、巫女たちの住まう里を統べる長老だ。


「あの娘とは……」

「一番奥にいる娘です。一人だけ襟の色が違うので、お気になられたのではございませんか? やはり目立ちましょうか」

 言われるまで龍宗はそのことに気づかなかった。確かに彼女は、一人だけ色の濃い襟をしていた。

 どうやらその色が気になって彼女を見ていたと思われたらしい。

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