雨の巫女は龍王の初恋に舞う
 はらはらしながら見ていた秋華の前で、最後の一尺ほどを璃鈴はひょいと飛び降りた。秋華が小さく悲鳴をあげる。

「気をつけて! けがはない?」

「平気よ、ほらね」

 璃鈴は、あちこちに土のついた手を見せてにっこり笑う。秋華は、ようやく、ほ、と息をついたようだ。


「驚かせないでよ。一体なんであんなところに登っていたの?」

「うん。これ」

 聞かれて、璃鈴は自分の背中に背負っていた布袋をはずす。そこからは、白い花がついた枝が顔をのぞかせていた。璃鈴が壁をおりてくる様子が気が気ではなかったらしく、秋華はその背にあるものには気づいていなかった。

「この花は……梅?」

「ええ。里の梅はまだ蕾が硬いのに、どこからか梅の香りがしていたの。だから探してみたんだけど」

 璃鈴は、今自分が降りてきた断崖を見上げる。さすがに下から見れば、悲鳴をあげた秋華の気持ちが少しだけわかった。
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