崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 レオナルドと聞こえて、思わずにアイリスは振り返った。立ち聞きはよくないとは思いつつも、耳をそばだててしまう。

「確か、今、二十六歳でしょう? さすがにそろそろお相手を決めるはずだわ。普段、ほとんどお近づきになれないから、なかなか親しくなれないわよね。今度の舞踏会が勝負だわ」
「私、頑張って声をお掛けしてみようかしら」
「そうよね。まずは認識していただかないと始まらないわ。ドレス、どんなのにしましょう?」

 同席していたご令嬢達が次々と相槌を打ち、盛り上がる。

 貴族の結婚においては、相手の家格や職位の高さは何よりも重視される。
 皇帝ベルンハルトが特に重用する側近は全部で四人いるが、レオナルドを除く三人は既に結婚もしくは婚約していた。 
 残った唯一の相手が決まっていない側近であり、名門貴族出身かつこの若さでハイランダ帝国副将軍であるレオナルドは現在、社交界で一番の注目の的であることはアイリスにもわかった。

 ──レオナルド様、もうすぐご結婚なさるのかしら?

 貴族の当主であれば当然いつかは妻を迎えて跡継ぎとなる子をなすだろう。
 そんな当たり前の事実に、酷くショックを受けた。


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