崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
 リリアナ妃はアイリスを見上げると、首を傾げた。

「それとも、アイリスは着飾ったりするのがお嫌いかしら?」
「いえ、そういうわけでは……。ただ、このような豪華な衣装は慣れていないですし──」

 アイリスは言葉を濁す。
 かつて、アイリスも普通の一人の貴族令嬢だった。少しお転婆で剣を握ることはあったけれど可愛いものも大好きで、ドレスを着ては大喜びし、お母様の髪飾りや宝石を眺めてはうっとりした。
 けれど、没落したコスタ家ではそんなものを用意することはできなかったし、今のアイリスはハイランダ帝国て唯一の女騎士だ。

 ──こんな美しいドレスは、私には相応しくないわ。

 そう思うのに、きっぱりと否定できないのはまだ自分の中に女として生きたいという微かな思いが消えないからだ。
 リリアナはそんなアイリスの心の奥底を見透かしたかのように、ふわりと笑う。

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