崖っぷち令嬢が男装したら、騎士団長に溺愛されました
「カイン。ゆっくりですね」
「くたびれたから、先に風呂入ったんだ」

 カインは屈託なく笑い、こちらに歩み寄る。確かに、短く切られた黒髪は水に濡れていた。
 こちらを見つめるカインの笑顔が、不意に消える。

「ディーン。それどうしたんだ?」
「何が?」

 アイリスは聞き返す。人の顔を見るやいなや『どうしたんだ?』と言われても、答えようがない。表情を強ばらせたカインはアイリスの右腕を突然掴んだ。

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