呉服屋王子と練り切り姫

だからって全部実行しなくても

 ヘリコプターはやがて東京上空を旋回して戻ってきた。
 あんなに憎まれ口叩きあってきたのに、やっぱり私と甚八さんは住んでいる世界が違うらしい。彼はそのままスマートに、54階の高層レストランに私をエスコートする。ここに来たのは久しぶりだ。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

 この前とは違うもてなしに、私は戸惑った。甚八さんはそのまま私の腰を抱いて、ウェイターについていく。甚八さんに腰を抱かれたのは、和装をしていたとき以来だ。これは、私の転倒防止じゃない! そう思うだけで、私の心臓がうるさいくらいに高鳴る。

「愛果、ドキドキしすぎ」
「し、仕方ないじゃないですか……」

 赤面して俯くと、甚八さんは更に私の腰を強く抱く。

「前見てないと、転ぶぞ」

 甚八さんは笑いながらそう言った。その直後、私は段差につまずいた。
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