響は謙太郎を唆す

今までの自分の心のどこかに残っていたかもしれない迷いを失くす。

真っ直ぐ用意されてるレールを、完全に降りる。

響に話して、形になってきて違う道を踏み出そうとする今日、もう、そのレールは自分の物じゃないとはっきりさせたかった。

「俺、医学部に行かない。家も継がない。違う仕事につきたい。後で撤回したり、やはり俺のだとは死んでも言わない」

弟は真正面から真っ直ぐに、謙太郎の言葉を受け取ったようだった。

「二言はない」

さらにもう一度、謙太郎がはっきり言った。

弟が、

「じゃぁ、本当にちゃんと家から出んの?ぼくだって人生がかかってるんだ。病院は1つの大きな歯車だ。それを半分に分けろとか、お金だけ欲しい、とか言わない?」
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