誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします


3人組のお客様が帰ったあと、ほどなくしてお兄ちゃんも帰って行った。
それから営業を続ける気にはならず、閉店時間までは少しあるけれど暖簾を店内に入れた。
カウンターに座り、お酒を飲む。
頭の中にあるのは、子供の時のこと。

当時の記憶は曖昧な部分も多く、忘れてしまっていることもあると思う。
幼いがゆえに、見えていなかったこともあるだろう。
それでも、先ほど覚えた違和感や直感を否定することはできない。

あの人は、シンお兄ちゃんじゃない。
じゃぁ、どうして? お兄ちゃんのフリをするの――?


* * *


どれくらい考え込んでいたのだろう?
ふと、誰かに名前を呼ばれた気がして瞼を開ける。
そこで気が付いた。
どうやら、私はカウンターに突っ伏して眠っていたらしい。


「百花」

「……律さん?」


そこに立っていたのは、律さんだった。
スーツ姿の彼は、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。


「どうして? 今日はまだ大阪では……?」

「予定より早く終わったから帰って来たんだ」

「そうだったんですか。でも、どうしてお店に?」

「家に君がいないからだろ。今、何時だと思っている?」

「えっと……」

「夜中の3時だ」

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