翠玉の監察医 法のあり方
「わかります。わかるのです、大切な人がいない悲しみを……」

両親を失ったこと、星夜を失ったこと、蘭の頭にはその二つの大きな出来事があった。蘭はゆっくりと自分の過去を話す。

「私は、朱莉さんと同じ歳くらいの頃に両親を亡くしました。そしてそれからは、親代わりとなってくれた人と暮らしていました。しかし、その人も事件に巻き込まれて未だに行方不明となっています」

「えっ……」

朱莉が驚いたような声を上げ、ゆっくりと蘭から離れる。蘭の目に映る泣きながら驚く朱莉の顔がだんだんぼやけていった。胸が苦しくなり、蘭の目からも温かいものがこぼれ落ちていく。

「だから、わかるのです。大切な人を失ってしまう悲しみや苦しみが。だからこそ、亡くなってしまった人のために事件の真相を明らかにしたいのです。加害者を裁いてもらうためにも……」

蘭は泣きながらエメラルドのブローチを握り締める。両親や星夜に逢いたい。しかし、それはどれだけ願っても叶わない。
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