お見合いは未経験
「そんなつもりで出した訳じゃない、とか、部長待遇ですぐ戻す、とかいろいろ言われたけどね、そこ行って何になる訳?って。それより、今の会社の方がオレがやりたいこと出来んだよね。」
年収はスライドか、少し下がるかもだけど、やりたいことやりてーからな、と成嶋は笑っていた。

「葵さんは…」
「好きにしたらいいってさ。オレがやりたいようにやってんの見るのが好きなんだって。」

なんだそれ。惚気か?
でも、そう言えばこの2人はそうだった。

成嶋がジャングルに冒険に行く!と言っても、それが本当にやりたいことなら、葵は賛成するのではなかろうか…。

「銀行、辞めてしまうんですね…」
「うん。お前は?仲間じゃねぇって思うの?」
「すみません。バカな質問をしました。」
「いや?嬉しかったけど。」

きっと、成嶋もいろいろ考えて、結論を出したのだろうと思う。
自分はどうなりたいのか、どの道を進みたいのか、この年になって考えるとは思っていなかった。
   
入行した時から、上を目指すことしか考えていなかったし、そこをこそ目指すべきだと思っていたから。
「あと、銀行員はエンドが早すぎるだろ。」
「確かに…」

一般的な企業の定年が60歳で、今や長いところでは65歳の定年すら検討されているこのご時世に、銀行員の定年は50歳だ。

それが支店長クラスになると55歳まで居られることもあり、みんながその椅子を目指して争うこととなる。
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