お見合いは未経験
「では、榊原さん、失礼いたしますわね。お料理はお願いしてありますので、どうぞ楽しんでいって下さいね。」

支社長も、奥様もそう言って部屋を出ていってしまった。
まさか、こんなに早々に二人きりにされるとは思わず、榊原は呆気に取られる。

見合いは初体験だが、こんなものか?!

「申し訳、ありません。」
真奈から極小さな声が聞こえた。
貴志にはそれも涼やかで、好ましく聞こえる。

「はい?」
「多分、父がすごく強引にお願いしたと思うんです。」

小さな声と目線を合わせない様子は、何となく人見知りなのだろうという気がする。
もの慣れないながらも、一所懸命話している、その様子が可愛くてしようがない。

「大丈夫ですよ。カジュアルにと聞いていましたから、少し驚きましたけど。真奈さんはこういったお食事は、何度かされているんですか?」
榊原は真奈が落ち着けるよう柔らかく、微笑みかけた。

「いえ…。初めてです。本当に今回、いいお相手なので、とすごく強引にされてしまって。ごめんなさい…」
「謝らないで下さい。こちらでお食事された事はありますか?」
「はい。何度か…。母と。」

「じゃ、こちらのお料理がとても美味しいのはご存知ですね。お酒は飲みますか?」
「いえ。余り頂けないんです。今日は…やめておきます。」

榊原は元々やり手の営業マンだ。
相手が人見知り、というのはさほど気にならない。
話を引き出すことも、続けることも、全く苦ではないのだ。

「すごく綺麗なお着物ですね?」
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