【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 TOKAIヒルズの休憩スペースには、テーマにちなんだ日本の伝統工芸品を(かたど)ったオブジェと、一坪ほどの坪庭が設けられている。

「どの坪庭も、オブジェにマッチするように造られているのです」

 は、と相手を見れば、氏は柔らかい表情で俺を見つめている。

 たしか、庭園は氏が監修したが、坪庭は若手育成のために全国からデザインを募集したのだ。

「隠岐さんのご希望に叶う造園師がいるかもしれません」

 コンペに参加してくる野心家ならば、オファーをすればスケジュールを調整してもらえる可能性が高い。

 俺はあらためて相手に握手を求めた。

「ありがとうございます! 貴方は我々のプロジェクトに貴重なアドバイスをくださった!」

「私も『隠岐の杜庭園』の完成を楽しみにしています」

 秘書の慎吾に午後の予定をキャンセルしてもらう。

 二人でショッピングモール内の休憩所の画像を丹念にチェックしはじめた。

「お宝探しだなー。護孝の気にいるガーデナーが見つかるといいな!」

 慎吾がワクワクしている声をだす。

「ああ」

 俺と深沢 慎吾は遠縁で、子供の頃から気が合った。

 俺が家業であるエスタークホテルグルーブの専務に就任したとき、秘書になってもらった。

 気配りの出来る慎吾は俺の女房役で参謀だが、周囲に人がいなければ二人は親友同士に戻る。

 数十枚にわたる画像を出力させて比較検討していくうち、一つの坪庭に目が止まった。
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