【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「うわぁ……」

 思わず感嘆の声が出る。
 クロマツが堂々たる姿で佇んでいた。

「樹齢何年になるんだろう……」 

 亀甲上にはがれる樹皮も苔むしていて、この樹が永く生きていたことを感じさせる。 

「絶対、この庭園のシンボルツリーだよね……」

 威厳と慕わしさ。
 この庭の主としてふさわしい。

「こんにちは」

 おごそかな気持になり、クロマツに声をかける。
 手が、自然と幹に触れていた。

「あなたはどこで芽吹いたの。どうやってここまで来たの?」

 誰かが見つけてくれたから、私もこの木に会えた。

「それとも、あなたはここで根付いて育ったの?」

 だとしたら、戦災も天災も人災もこの木を避けてくれたのだ。

 私はクロマツに夢中になり、周囲に気を配っていなかった。
 しゃり。
 砂利が踏まれた音にハッとなる。
 振り返ると、スーツを来た男が息を弾ませていた。
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