【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 ぐい、と顔が見れるくらい、引き離される。
 彼が私と視線を合わせてきた。

「貴女を貸し出して欲しいと申し込んだ俺に、多賀見は見合いを申し入れてきた」

「え?」

 私のレンタルってなに?

 ふっと彼が苦笑をうかべる。
 なんなの、その大人の艶と色を滲ませた顔は。
 私の心臓を攻撃しないで。

「俺の弱みをついた、見事な策略だと賞賛せざるを得ない」

 こんなエリートっぽい人が弱みなんてあるの?

 多賀見っていうなら伯父様なんだろうけど……、頭のなかはハテナでいっぱい。

 でも、一つ確かなことがある。

「ありえません。多賀見は代々恋愛結婚の家柄なんです」

 こわい気持ちにフタをして、男性を見上げた。

 お祖母様もそうだし、伯父様達やお母さん達しかり。
 私や従兄妹にもつねづね『好きな人と一生を歩みなさい』と言ってくれている。

 だが、男性は聞き入れてくれず。

「なぜ、見合いを仕組んだのか。今、秘書に多賀見氏をお呼びしたから直接訊ねればいい」

 あんなに多忙な伯父様を呼びつけた?
 この人、何者なの。

「行くぞ。君との結納の日程について、多賀見氏と相談する」

 彼は私の腰を抱くと、建物に移動しはじめた。

「待ってください!」

 まだ、この庭を堪能してない!

 彼は立ち止まると、私を見つめてきた。
 深い想いがこもったような視線に目をずらせない。

「……ひかるには、恋人がいるのか?」
「いま、せんが」

 私が男性を見つめれば、彼の瞳が和んだ。
 あまりに柔らかく優しく眼差しにどきん、と心臓が鳴る。

「俺もだ。縁のない男女が見合いで出会い、恋愛感情を育むのも一つの手段だと思わないか? ひかる、俺は貴女と結婚する」

 ふ、と彼が口角を上げた。
 それだけで世界は自分の意のまま、というようにふてぶてしい顔になった。

 そして冒頭に戻る。
< 26 / 125 >

この作品をシェア

pagetop