【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「ひかる」

 呼びかけられて、ハッと彼に意識を戻した。

「怒ってるか?」

 隠岐さんが私をのぞきこんでいる。
 言ってしまおうか。
 馬鹿な娘だと嗤えばいい。

「怒ってます」
「なにを?」

 やっぱりわかってない。
 隠岐さんのバカばか馬鹿!
 それとも恋愛巧者な皆様はシグナルを捉えてとか、恋愛のかけひき教則本で公式と照らし合わせて、隠岐さんは私を好きじゃないと判断するの?

 そんな本、私持ってないよ。
 て、ことは私がおバカ?

「オファーならそれらしく言ってください。私、プロポーズされてるのかって勘違いしかけちゃいました」

 努めて明るく言ってのける。

「いきなりで驚いたろう、俺もだ」
「え?」

 どういうこと?
 真意を聞きたくて隠岐さんを見上げれば、彼は苦笑していた。

「多賀見家との縁組という判断自体が間違いではない。一族には事後報告で構わないが、秘書の慎吾には早急に伝えておかないと動きがとれないからな」

「はぁ」

 社長のスケジュールを秘書さんが管理してるから?
 あ、花瓶に活けられているお花可愛い。

 所在なくて、きょろきょろしていると。

「それと多賀見氏に、一刻もはやく『ひかるは俺と結婚する』と宣言してしまいたくてね」

「……はい?」

 あらためて彼を見ると、どうやらずっと見られていたようなのだ。
 亀のように慌てて首を引っ込めてしまった。

「俺の結婚は有効に利用すべきものだ」

 まあ、あんな一流ホテルのオーナー一家なら、いわゆる政略結婚をするような家柄なんだろうな。
 伯父様も隠岐さんを知ってらしたみたいだし。

「なのにひかると出逢った途端、目の前の女性をどうしても手に入れずにはいられなかった」

 ん?

「貴女が欲しくて、どうしようもない。こんな衝動、俺自身が驚いている」

 熱っぽくささやかれている。これは口説かれてる、のかな?
 まさか!

 え。
 私の勘違いじゃなくて?

 見上げた彼の表情はとても真摯で。

「貴女が作った『野点』のようになど。とても借景だけ、見るだけではすませられない」

 うわ、うわっ!
 まるで身裡に熱を飼っている人のよう。
 暴れまわって本人も持て余している熱を、せめて瞳や言葉から発散しないと焼け爛れてしまう人のようだ。


「だが、出逢ってしまったからには。自分でもおののくほど、ひかるの身も心も戸籍すら自分のものにしたい。早く君を俺のものしてしまわなければ、気が休まらない」 

 こんなイケメンがなんでここまで?
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