【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「……隠岐さん」 
「ん? つれないな、ひかるは。護孝でいい」

 隠岐さんから体を遠ざけようとしているんだけど、手をがっちりと掴まれたままである。

「ぷっ、プレゼンの距離ではない思うんですがっ」
「離れがたい」

 ぼそりとつぶやかれた。

「え?」

 見上げればそれは甘い甘い、バニラアイスにあんこをトッピングして黒蜜をソースでうわがけし、カスタードプリンにメイプルシロップをかけたスペシャルデザートを頼んだような激甘な隠岐さんがいる。

 よく、こんなに甘くして虫歯にならないなぁ。

 隠岐さんが私の顔をっ、たった指一本でくいって上向きにしたぁ!
 
 お父さんにもクライアントにも反論し、レフェリーストップまで噛みつくことをやめない私の強靭なアゴってば!
 どうして今日に簡単にクイ、されちゃうの?
 脆弱すぎるよ!

「男が好きな女性を口説く距離としては、適正だと思うけど?」

「くっ、くど……っ!」

 好き?
 隠岐さんが、私を?
 さっきからなにか変なこと言ってるよ!
 日本語的にはおかしくないけど、私に使うにはちょっと用途が違うかなぁ!

「あの。なにか勘違いされておられるのでは」

 というか、私が勘違いしそうになる。

 隠岐さんはしれっと言いにくい言葉を使えてしまう大人で。
 そう、微笑みと言葉で煙幕を張る人だ。
 お願いだから、業務提携のために婚約なんて言い出さないで。
 私は子供だから、口説かれたとトキメイてしまう。

 こんな女に惚れてられるのは、困るでしょ?

 が、隠岐さんは私の混乱などお見通しみたいだった。

「なにをかな」

 イタイ女だって自覚させるために、わざわざ私に言わせるなんて。
 
 じゃあ言ってやる、どうせ二度と会うことはな……くならない。

 たった今、私と彼は雇用契約を結ぶ話をしてたんだった。
 でも、修正しておかないと働きづらくなる。

「私のこと、すっ、好きとか!」

 ほーら、笑えばいい。この『自意識過剰女』ってぇぇ!

「好きだよ?」

 私が決死の思いで告げたら、するりと告白された。

 え、待って。
 思考能力いったん停止。
 うん、再起動。
 フリーズしないよう、用心深く質問してみる。

「…………私と隠岐さん、今日が初対面ですよね?」

 私、目まんまる。おまけに顔が赤くなったり青くなったり。ついでに目を白黒させているんじゃなかろうか?

 告白されたのはクズ彼についで、たった二回目だ。
 言われて、『ありがとう』なんて即座にかえせるスキルを持ってはいない。

 どうして?
 こんなに立派な人がなんで、私?

 まずははてなマークばかりが脳内に浮かぶ。

 私のぼそぼそした呟きの内容を理解した途端に、隠岐さんの顔が翳る。
 ものっすごい罪悪感!

「初対面で貴女にプロポーズする、俺のことが嫌いか?」

「いやっ、そうではなくてですねっ!」 

 イケメンでCEO。
 見目麗しく優秀な男性を嫌いになれる女性のほうが珍しいと思う。
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