【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「ねえ、ひかるちゃん」

「んー?」

 玲奈ちゃんはちろりと私を見た。

「ひょっとしたら、まだ元カレのことを想ってたりする?」

「しない」

 私は全力で否定した。

 父の弟子の一人とつき合っていたけれど、跡継ぎ目当てだったことがわかって、私から振ってやったんである。

 ……そりゃ、別れたてすぐは大泣きしました。
 でも。
 一年もしないで立ち直ってしまった。

 私がメソメソしていたら多賀見家の女達が全力で構ってくれたのである。

 普段は都心で働いている玲奈ちゃんはまめに帰って来てくれた。
 彼女とお喋りしながら庭の手入れをしたら、ほんと癒された。

 それ以外にもお祖母様のお琴の会に一緒に行ったり、伯母様に観劇に連れて行って頂いたり。

 モラハラ気味だった元恋人と別れたら、毎日ご飯が美味しいし、仕事は楽しい。
 職場環境、最高。
 我が世の春を満喫しちゃったのだ。

 私は色恋沙汰や人間関係で、この環境を崩したくないんだよ。

「今、庭の世話で目一杯だから、男の人なんて無理」

「……ひかるちゃん。そんなこと言ってたら、枯れちゃうよ?」

 聞き捨てならない。

「えっ、なんか枯れてた? どこどこっ」

 立ち上がって、窓から見える限りの庭に目をこらす。
 あたりを見回した。
 わからないから外に出て庭じゅう探そうと立ち上がったら、服の裾を引っ張られた。

「ひかるちゃん、人間として女性としてだよ」

 なんだ。なら、平気。
 ほっとした私に、玲奈ちゃんは一瞬お小言をいいかけ。
 気を変えたらしい。

「隠岐さんとはどーお?」 

 私はソファに沈み、クッションに顔を埋めた。
 真っ赤になっているであろう顔を見られたくないから。

「……隠岐さんもダメなの?」

 玲奈ちゃんの心配そうな声に、仕方なく返事を絞り出す。

「…………駄目じゃないから困ってるんだよ……」
「え?」

「なんなの、あの人! 強引だし、お金払わせてくれないし!」

 がばっとクッションから顔をあげると、怒鳴った。
< 49 / 125 >

この作品をシェア

pagetop