【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
 二人が初めて逢ったクロマツの前にたどり着いた。
 護孝さんはひざまづくと、私の手を取る。

「愛してる。一生大事にして幸せにするから、妻になってほしい」

 私への愛情を煌めかせて、護孝さんが見上げてくる。
 湧き上がる多幸感に身をまかせて、彼の首にしがみついた。

 誰もいないのに。
 私達を、見守っているのは天と地と、草花に蝶や鳥しかいないのに。
 恥ずかしくて彼の肩に、顔を伏せた。

「…………はい」

 耳元で、護孝さんにしか聞こえないような声で返事をする。
 ほう、と大きな息が彼から吐き出された。
 見つめていると、護孝さんが顔を上げて目を閉じる。

 求められている。
 自身も溢れる想いのまま、私は護孝さんの唇に自分のそれを重ねた。
 彼が目を開けると、微笑んだ。

 ポケットに手をやった彼は何かを取り出すと、私の左手をとる。

 おかしいな、目を離したくなくて彼の行動をじっと見つめていたはずなのに。

 薬指にはしった冷たい感触に、あらためて自分の指を確認して、目がまん丸くなった。
 親指の爪ほども大きなダイヤモンドがきらきらと太陽の光を受けて輝いている。

「ひかるは売約済みってしるし。……小さかったかな?」

 不安そうに訊かれて、私は大急ぎで首を横に振った。
 
「こ、これ以上は指が折れますから!」

 大きすぎます!

「うん、予想通りの答え。ひかるだけだよ、石の大きさに文句を言う女性は」

 え?
 そ、そうかな。

 護孝さんは綺麗な双眸を爛々と煌めかせた。

「でもね、俺のひかるへの愛はこんなに小さくないから。それだけは覚えておいて」

「はいーっ!」

 もっと大きいの?
 なんとなくそんな気はしてた。

 とりあえず返事しないと。
 砂糖にメープル、あらゆる甘味料をふりかけた超激甘促され攻撃にさらされる。
 私は求婚されたうら若き乙女にしては、やや勢いよく言葉を返した。

 こ、これ以上護孝さんに甘ーい対応されたら、私はトロトロに蕩けて人の形を保てなくなってしまう。

 護孝さんがたちあがる。
 なんとなく彼に気圧されて後退ると、とんと軽い衝撃があった。

 クロマツだった。
 護孝さんの腕が左右にあり、彼と木に閉じ込められてしまった。
 顔が近づいてくる。

 最初は風か花びらが触れたのかと思った。
 
「ひかる、愛してるよ」

 護孝さんが目を開けたままの私に合わせて、彼も目を開けたまま唇で私のそれに触れてきた。

 柔らかい。
 護孝さんを見つめたけど至近距離すぎて、ぼやける。
 なら目を閉じて彼の唇や彼の薫り、私を囲う彼の全てを感じよう。

 私達は何度も唇を合わせた。
 期せずして、はあ……と熱い息を吐き出すと、護孝さんが愛おしげに見つめてくれている。

 自分がうっとりとした表情になっているのがわかる。

 深呼吸を何度かすると、護孝さんが近くのベンチへ導いてくれた。
 ……腰を抱かれてないと歩けないほどにヘロヘロになっている。
 予想通り!かな。
 しまった、私の形をした金型を持ってくればよかった。

『護孝さんに愛された私のゼリー寄せ〜松葉や芝生が混じってダイヤモンドのトッピング付き〜』がつくれない。

 腰を落ち着けると、どちらからとなく喋り出す。

『隠岐の杜プロジェクト』の地鎮祭、スタッフの面接。結婚式の会場はどうする、和装にしようか洋装にしようか。

 話が尽きないうちに、くううう……と私のお腹が鳴った。

「いい頃あいだ。食事にしよう」

 護孝さんが私の手を取り、立ち上がらせてくれた。
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