不完全な完全犯罪ZERO
有美の決断
 私も良く解らないのだけど……
磐城君がみずほのために行った屋上での慰霊祭。
その本当の内容を知らない百合子と千穂は、又キューピット様をやろうと言い出した。
勿論、サッカー部のエースの彼女を自殺に見せかけて殺すためだ。
私は陰に隠れて磐城君の行動を見守った。


もし又キューピッド様を遣るように言われたら積極的に参加してほしいと、磐城君あの時俯いた女生徒達に呼び掛けていた。
それは私が屋上に行った時に見たクラスメート達だった。
勿論、みずほの事件のことは知らせないでほしいと念を押して……


きっとあの二人は真相がバレていることも知らないのだろう。
岩城みずほは自殺として処理されたと思い込んでいるみたいだったからだ。


又犠牲者が出ると、彼女達は渋った。
でも理解してくれたようだ。


あの二人が誰を殺したがっているのか言えない。
すぐに知れ渡ることだけど、私が殺しの対象になっている事実を言いたくなかった。
磐城君も知らせる気はなかったようだ。


『もうみずほのような犠牲者は出したくない。だから犠牲者となるかも知れない人を救いたいんだ』
磐城君はそう言った。


その時磐城君は誰の名前が書かれたのかだけを知らせてほしいと頼んでいた。
私が本当に自分なのか知りたいと言ったからだ。


方法は簡単だ。
机の上に消ゴムを置くだけだった。




 そして……その結果出た答えは《まつおゆみ》だと知った。
私は机の上に置かれた消しゴムを握り締めた。


(本当に私なんだ……)

私はただ……
みずほと一緒に磐城君の入ったサッカー部の練習を見に行っただけだ。
そしてエースに一目惚れしただけだ。
そりゃー勿論、色目も使ったし、積極的に行動もしたさ。
でも、それだけだよ。
磐城君から知らされた事実は、彼も一目惚れだったと言うことだった。




 私がみずほと見ていたグランド脇を磐城君も見ていた。
エースの彼がそれに気付き話してきたそうだ。
磐城君は照れながら自分の彼女だと言ったそうだ。
その時、みずほの隣にいた私のことを気にしていたそうだ。


だから『ずっと気になっていたって』って言ったみたいなのだ。




 磐城君はかねてよりの計画通りに、犠牲者になる生徒を見渡せる場所にいて見守ってほしいと担任に頼んでくれた。


勿論担任は渋った。
教え子を疑うことに難色を示した。
そこで磐城君は、録音した二人の声を聴かせることにした。




 職員室の廊下から覗いていた私は、担任の顔が見る見る変わるのを目撃した。
私や磐城君同様に、相当ショックを受けたようだった。
そして頷き、そのまま屋上へと向かった。
私はその後を付けて行くことにした。




 みずほの堕ちた柵からは見えない屋上の階段へと続くドアの横。
私は此処で二人を見ることにした。


私と磐城君で事前に充分検証した結果、担任にいてもらう場所に最適だということになったからだ。
その下調べも兼ねていたのだ。




 百合子は参加した全員が握った鉛筆で、さもそれがキューピッド様の意思のようにみせかけと《いわきみずほ》と書いた。

磐城君でも、みずほでも良かったのだ。
磐城君が死ねば橋本君はずっとレギュラーだ。
でもみずほなら、クラスメートを焚き付ければ自殺にもっていける。
そう踏んだのだ。


岩城みずほは優等生で、成績は常にトップクラスだった。
だから彼女が自殺してくれたら喜ぶ生徒が大勢いるだろうと推測したのだ。


きっと福田千穂は磐城君が大好きだったので、《いわきみずほ》と書かれて驚いたのだろう。
だから、男か女か聞いたのだろう。


私には、いくら磐城君を愛しても受け入れてもらえなかった彼女の哀しみが堪えていた。


私がエースと付き合い始めたことにより、千穂と同じような思いをさせた生徒達に申し訳ないと思い始めていた。




 (もし助かったならやはり転校しよう)

エースとこれからも付き合うとしたら、私にはそれ以外方法はなさそうだ。
遠距離恋愛にはなるけれど……


私は、私達の未来のために今日を生き抜く決意をした。




 でも私は気付かなかった。
彼から貰った合わせ鏡が無くなっている事実に……
私はそのことで屋上へ誘い出されたのだった。


目の前には〟死ね〝 と書かれた鏡があった。
私は思わず走り寄った。




 『おかしいわね。何故みんな来ないの?』
百合子が言い出す。


『用事でもあるんじゃないの』
千穂も言う。


『みんなが来ないと私達帰れないじゃない。千穂本当にみんなに言ったの?』


『当たり前よ。ちゃんと言ったわよ!!』


『それじゃー、何故来ないの?』

百合子は少しイライラしているようだった。


(百合子はきっとクラスメートを焚き付けて完全犯罪を狙ったのだ。ヤバい、殺られるかも知れない)

恐怖に怯えながらも私はそう感じた。




 『昨日キューピット様を遣ったら、アンタが死ぬと出たの。だからアンタは死ななきゃいけない。さっさと此処から飛び降りて』

業を煮やした百合子は、私の自殺を要求した。


百合子が近付いてくる。
私は思わず身構えた。


そんな私の姿を見たのだろうか?
磐城君はたまりかねて屋上へ出てきてくれた。


担任の姿が見えないことは薄々感じていた。


(私が居なくなったら継母と気兼ねなく付き合っていけると判断したのだろう)
私はそう思っていた。


そんな時に磐城君が現れてくれたのだ。
それだけで嬉しくなった。


(既にキューピッド様で《いわきみずほ》と出ているのだから、《まつおゆみ》の代わりに自分が墜ちるても、問題はない)
磐城君はきっとそう思って此処に来てくれたのだと判断した。




 『な、何なの!?』
百合子が慌てる。


『磐城君……何時から其処に居たの……?』
青ざめながら千穂が言う。


『俺は何もかも知っているんだ。二人がみずほを殺したことも』


『何言ってるの!? みずほは自殺じゃない!』
百合子が噛みついた。


その時、磐城君は録音機のスイッチを押した。


『ねえ、次に死ぬのは誰にする? だって三連続なんでしょう? 誰が続かなきゃ意味無いと思うのよ』


『これは!?』


『そうだ。あの時のカフェでの会話だ』




 千穂が泣き崩れる。


『千穂よ! 千穂が岩城みずほからあんたを奪いたかったのよ!』

百合子は全ての罪を千穂に被せようとして、指を差しながら言った。


『嘘つけ! 橋本翔太をレギュラーにしたかったのは一体誰だ!』

磐城君の放った一言に百合子は言葉を詰まらせた。




 でも百合子は開き直った。


『いい千穂。松尾有美は自殺よ。良く覚えておきなさい』

百合子が私の腕を掴んで柵に押し付けた。


その時、隠れていた担任が飛んで来た。


『先生!?』
千穂が慌てている。

でも一番驚いたのは私だった。


まさかずっと見守っていてくれたなんて……


(ごめんなさい先生、私てっきり裏切られたと思っていた)


担任は起点を利かせて、タンクの横で見張っていたのだった。


百合子は磐城君を睨み付けていた。


『あんたが……』
百合子はそう言うと、磐城君の腕を掴んだ。


『《いわきみずほ》と初めから出てたのよね。アンタだって良いってことよ!』
百合子は興奮していた。




 私は思わず鏡をを拾い上げて握り締めた。


(お願い!! 磐城君を助けて!!)
私は心の底から祈りを捧げていた。


その時、鏡に〝死ね〟と書かれた文字が揺らめき始めた。
それはどんどん大きくなり、やがて一つの黒い影になった。


私は腰を抜かした。
私の目の前で繰り広げられる光景があまりにも残忍だったからだ。
私にはみずほの堕ちた瞬間が見えていたのだ。




 《岩城みずほが飛び降り自殺する》その情報がみずほのクラスに錯綜する。
すると、クラスメートが浮き足立った。


(友達なんて上辺だけだと百合子には解っていた。だからそんな心理につけ込んだのか?)




 『自殺するなら早くしろ!!』
『そうだ。俺達は暇じゃないんだ』
心ない野次が飛ぶ。
そんな中、みずほは携帯を手に取る。
きっと磐城君に助けてもらいたくて……


でも、それを百合子が取り上げる。




 『誰か、誰か助けてー!!』
みずほが叫ぶ。
でも誰も助けてはくれなかった。
もう一度みずほは救いの手を求める。『助けてーー!!』と叫びながら……


結局誰一人助けてくれなかった。
みんな傍観者だったからだ。


私は黒い影が見せてくれた映像をただ見ているしかなかった。
そして私は気付いた。
あの日此処に集まったクラスメートのように、自分も傍観者だったのだ。


黒い影はその後で、磐城君のコンパクトを目掛けて飛んで行った。




 『辞めてー!』
その時、千穂が叫んだ。


千穂はさっき私が見た黒い影にの体を乗っ取られていた。


でもそれだけではないように思えた。
きっとみずほのコンパクトから現れたであろう邪悪な塊にも……


私の合わせ鏡に〝死ね〟と書いた百合子だ。
きっとみずほのコンパクトにもそう書かれていたのではないのかと私は判断した。




 『そっちはイヤーー!』
声にならない声で必死に叫ぶ千穂。
次第に屋上の一番端に向かっていた。


千穂は踏ん張る。
でも所詮か弱い女の子だった。


『千穂!』
磐城君が百合子の手を振り切って、千穂の腕を掴もう駆け寄った。

もう少しで届こうとした時に、百合子が磐城君を追った。


強引にでも磐城君を墜とす気らしい。
私はもう一度鏡を握り締めた。


千穂は磐城君が差し出した手を拒んでその手を百合子に向けた。


『千穂!?』
百合子が慌てていた。


『磐城君……』

千穂は目に涙を溢れさせながら百合子と屋上から堕ちていった。




 その時私は、磐城君に白い影が纏わり付いているのを見た。
みずほの霊が磐城君を助けたのだと感じた。


(やはりみずほは磐城君が大好きだったんだね)
私は何故だかホンワカしていた。


キューピット様は四人以上で遣ってはいけない。
真しやかに語られている事実だ。


町田百合子と福田千穂。それだけじゃない。
あの日屋上にいた女生徒達はそれ以上いたのだ。
確か全員が参加者だったと磐城君は言っていた。


だからキューピット様が怒ったのかも知れない。


私の鏡から飛び出した黒い影は、みずほのコンパクトに寄生した黒い影と一つになって千穂を堕としたんだ。
私はそう思った。
磐城君を手に入れるために百合子の始めたキューピット様に乗ったのだから……




 私は担任と一緒に家に帰って来た。


『有美ちゃんその話誰にも言っちゃだめよ』
私が事件の報告をした時、継母は言っていた。
でも私は父親殺しを担任に打ち明けていた。


事件の一部始終を聞いた担任は、私の軽はずみの行為が三連続死を招いたと叱った。


私の父から始まった三連続死。
のはずだったのに、何故かクラスメートが三人が死んでいった。
そんなことに疑問を持ちながらも、事件が解決したことに安堵していた。




 担任はその場で婚姻届けに名前を書いた。
それは継母が籍にも入ってなかったと解って用意していた物だった。
それほど愛していたのだ。




 結婚式は私の誕生日になった。
私もその日エースと結ばれる。
つまり合同挙式になる訳だ。


まだ高校一年生の私を若過ぎると彼の両親言った。
でも私の家を見た時、態度は変わった。
私はお嬢様だったのだ。


彼がサッカーを極めたのは、両親に楽をさせるためだったのだ。
でも決して財産目当てではない。
私の方から惚れたのだから……




 私は日本中で一番若い花嫁になる。
そのことを磐城君にも知らせたくて、木暮君に又電話した。
実は今なら十六歳でも結婚が許されるのだ。もう少ししたら、男女共に十八歳にならなければ結婚出来なくなってしまうのだ。

彼が私との結婚を決めてくれた理由は他にもある。
悪いけど私あの合わせ鏡を彼に見せたのだ。そして、又誰かに命を狙われるかも知れないことを話したのだ。
私って本当にズル賢い。けど、それだけ彼を思っているってことなの。
それだけは言える。


 私は彼と二人でアパートで暮らすことになった。
財産を取られるのがイヤで継母を籍にも入れなかった親戚。
そんな連中から逃げ出したかったのだ。


彼のことを何も知らないくせに、継母同様イチャモン付けられたらたまったもんじゃない。
私は強かに彼と生きる道を選んだ。


私は自宅を慰謝料として継母に渡すことを親戚に申し出た。
父が奪った物がそんな程度で許されるはずはないのだけれど……

継母は戸籍には入っていなかったけど、内縁の妻として認められるかも知れない。
もしそうなったら、財産分与が出来るはずだから。


父は労災が認められた。
それで私の罪が無くなる訳ではない。だけども少しだけ気が楽になった。
後は磐城君の私への疑いを晴らす役目を木暮君に任す以外手はない。
私は何処までズル賢い人間なのだろう。



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