氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
「――辛い思いをしたんだね」
 
「そうなんですよ、酷いですよねぇ、こんな可愛い子を愛人にしようだなんて」
 
「全くだ」

(……おぉっと)

 ちょっと暗くなってしまった場を和ませようと、わざとおどけて言ったのに被せ気味に答える彼の声が物凄く真剣で驚く。これも彼の優しさだろうか。

 沸き上がって来たこそばゆいような恥ずかしさを誤魔化したくなり、聞かれてもいない余計な事まで口から出て来てしまう。
 
「え~っと、それでですね。痛い目に遭っちゃったんで、男性と気軽にお付き合いすることに慎重になっちゃって……友達に合コンに誘われても行く気にならないんですよ」

「――合コン?」

 事情を知って綾を心配してくれる大学時代の友達から声がかかる事がある。気持ちはありがたいのだが、どうもそういう気にはなれず断り続けている。結婚はいつかしたいなと思うが……

「かといってお見合いを勧められても気が進まないんですよね」
 
「見合い?」
 
 間宮の顔が再び強張るのに気付かず、綾は捲し立てるように話続ける。

「ウチの店の5軒先に呉服屋さんがあるんですけど。最近そこの大旦那さんと何故か仲良くなって『息子と見合いしてみないか』って言われたんです……まあ冗談だと思うんですけど。そういう話が実際来たとしても、一度嫌な思いをしちゃったから、つり合いが取れない人と結婚は無理だろうなと……」

(あれ、私言わなくても良いことまで話してない?)

 別に間宮は綾の恋愛事情など知りたい訳ではないのに。
 
「……えっと、要はさっき絡まれた時に結婚を前提に付き合ってる人がいるって言えば諦めるかなと思ったんです。本当は彼氏も居ないのに。でもしつこくて、どうしようと思っていた所にちょうど間宮さんが居合わせてくれて……本当に助かりました。利用してしまってすみませんでした」

 改めて頭を下げる。

 あの時、声を掛けてくれて、こちらに来てくれて本当に助かった。
 しかし間宮にとっては面倒な男女のいざこざに巻き込まれてしまった事になる。
 
「……出過ぎた真似をしてしまったかなと思ってたけど、役に立ったのなら良かった」

「いえ、まさに迫真の演技で!ドラマや小説の世界かと思いました」
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