氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 その後、ふたりはふれあいコーナーで魚に餌をあげたり、イルカショーを見たり、屋外で海を見ながらソフトクリームを食べたり……と水族館を満喫した。
 
 綾も久しぶりの水族館だ。楽しい。だか、困ってしまうのは間宮の態度だ。 
 彼はあたりまえのように手を繋ぎ続けるし、何かと距離感が近い。そして綾に向ける笑顔は――
 
(甘い……甘すぎる)
 
 これでは年下の彼女が可愛くて骨抜きになっている男のようにしか見えない。
 さすが、今日は恋人として扱うと言っていただけある。設定だとわかっていても、大した経験値の無い綾にはいちいち心臓に悪いのだ。
 
 ミュージアムショップでもペンギンのぬいぐるみを綾に買おうとするので『ペンギンのぬいぐるみに対してはこだわりが強いんです。再現性と可愛らしさが共存した作品で無いと』と我ながら訳の分からない事を言って誤魔化した。

 そうこうしている内に日も暮れかけて来た。綾は明日仕事なので早めに帰る事にする。
 軽く敷地内のレストランで食事をした後、間宮の運転で送って貰う。
 
「楽しかった。ナイトミュージアムもあるみたいだから、また来てみたいな」

 エンジンを掛け、静かに車を発進させながら間宮が言う。綾の希望で来た場所だったが
 彼も楽しんでくれたようで良かった。

 「……そうですね。夜は生態が変わるって言いますし」
 
(『また来てみたいな』っていうのは私と一緒って事じゃなくて、久しぶりに来た水族館が興味深かっただけだよね)

 ラブラブ作戦(綾の心の中で命名)で精神的に疲れはしたものの、綾は間宮と過ごした一日は純粋に楽しかったから、そう思うと少し寂しい気がした。

 車は渋滞に嵌る事も無く、順調に綾のアパートまでたどり着く。
 もう日は完全に落ち、辺りは暗くなっていた。
 
「さて、着いたよ。綾、疲れてない?」
 
 朝と同じ場所に車を止めて、間宮は助手席を開けるためシートベルトを外し一度車から降りようとしたしたのだが、綾は慌てて「間宮さん」と声を掛けて彼の動きを止める。
 
「あの、良かったら、これ」

 言葉と共にショルダーバックから出して彼に差し出したのは、ミュージアムショップの小さな包装。
 驚いた顔で受け取った間宮は封を開け中身を取り出す。
 
「買ってたの、気づかなかった」

 意外に思うのも当然だろう。あれほど片時も綾から離れようとしなかったのだから。
 ミュージアムショップに行ったときにさりげなく目星をつけておき、食事後トイレに行くふりをしてショップに向かい、素早く買って戻った。
 もう気分はインポッシブルなミッションをクリアするエージェントの気分だった。
  
 中から出て来たのはキングペンギンのキーホルダーだ。
 革がペンギンの形に型抜きされていて、いわゆる水族館のお土産的な感じではなく、少しだけだが高級感がある。
 綾もアデリーペンギンのバーションを購入した。そうは言っても彼にとっては安物だろうけど。

「すごくいいね。貰っていいの?」
 間宮はキーホルダーを掌に載せて嬉しそうに顔を綻ばせる。
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