氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
彼女の自覚
 綾は店内で、商品のディスプレイ作業を行う。

 工房から届いたばかりの新作のぐい呑みは5種類1セットとなっていて、1つ1つ色もカットも違う。
 淡い色合いの繊細なガラス細工たちが一番映えるように配置をあれこれ考えるのは楽しい。
 
 海斗に偽恋人をしてもらう事になってからもうすぐ2か月。
 
 偽に順調という言い方をするがおかしい気がするが、彼との関係は順調に続いている。

 昼は箱庭――屋根が付いたので雨の日も通いやすくなった――で会い、
 夜は主にヒルズ内のレストランで食事をする。レストランでの食事はマナーの勉強も兼ねるようになった。
 
 海斗は相変わらず甘い態度で綾に接する。
 ドキドキはするが、最近は少し耐性も付いてきた気がする。
 
 水族館からの帰り、車中で彼にキスされた綾は自宅で我に返った後、押さえられない動悸に襲われながら考えた。
 
 あの甘い雰囲気や熱い視線……もしかして、自分の事を……?と
 
 しかし、すぐさま冷静な自分が出て来て否定した。
 
 そんなわけないでしょう。
 あんな素敵な男性、本気で自分の事を好きになるはずがない。と。
 
 きっと彼は完璧主義者なのだ。
 映画俳優が役作りの為に極端に太ったり痩せたりする事があるように、彼もストイックなハリウッド俳優の如く一度引き受けた事は入り込んで完璧にこなそうとするのだ。
 
 そうでも無ければ、あの若さで超一流企業の管理職にはなっていないだろう。
 だからと言ってキスまですることは無いではないかと思ったが
 
 ……全然嫌じゃ、なかったのよね。
 
 そして、綾は自覚した。
 
 彼に恋してしまったのだと。
 
 男性として好きだから、こんなに悩むのだ。
 箱庭で出会ったその日から、惹かれていたんだと思う。

 ただ横で他愛の無い話をするだけで楽しくて、その関係を壊したく無かった。
 だから無意識に男性として見ないよう、ただの昼仲間だと思うようにしていた。
 
 でも、あんなに素敵な人に、演技とは言えあんなに優しくされたら、さすがに心持っていかれるよ……。
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