氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 海斗は上機嫌で言う。
 
「……はい」
 
 さっきの短い呟きが、彼の本心だったらいいのに。
 
 ドレスが決まって良かったと思っていたら今度は何故用意されていた別の服に着替えさせられた。
 今着ているのはモーブピンクのボートネックにパフスリーブ、膝丈のスカートがふわりと揺れる可愛らしいデザインだ。
 着て来た服は自宅に送ってくれる手はずまで整っていた。
 
 全身着替えさせられ、キョトンとしている内に海斗に店から連れ出される。
 ブティックの店員たちに暖かい目で見送られながらブティックを後にした。
 
「海斗さん、この服って?それにさっきのドレスはレンタルですよね?」

「この服、僕の趣味で頼んでおいたんだ。君には可愛い感じの服が似合うと思って。でもさっきのドレスを見てやられたよ。本当に似合ってた」

 ――質問の意図と答えが合って無い気がする。
 
 今着ている服はとても可愛いけれど、かなりの高級品と思われる。ここまでしてもらうのは心苦しいし、落ち着かない。ちゃんと確認しなれば。
 
「海斗さん、でも……」

「今日はこれからこのままデートしないか?」

 やっと綾とふたりでゆっくり出来る、と海斗は笑うと腕を綾の方にスッと差し出し手を掛けるように促す。
 
「今日はパーティの予行練習って言っただろう。このまま付き合って?エスコートするよ」
 
 笑顔のままだが有無を言わさない流れを醸し出している。

「……」

 綾は差し出された腕を見つめる。
 
(色々、うやむやにされている気が……)

 ダメだ。想いを寄せる相手とは言え、流され続けている、ちゃんと言わなきゃ、と思いながらも 結局彼の腕に手を回してしまう綾なのであった。 
 
 ホテルのラウンジに戻りふたりでのんびりお茶を飲み、日暮れも近づいて来た頃、そろそろ良いかなという海斗に連れて来られたのは、何故かビルの屋上だった。
 
「前に飛行機にまた乗りたいって言ってただろう?今回は飛行機じゃないけど」

「たしかに、飛行機じゃないですけど、わざわざ飛ばすんですか……?」
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