氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
悲しみの朝
(あれ……?)

 やけに広くて寝心地の良いベッドで綾は目覚めた。
 
 重い目を開けると横たわっているベッドも広い部屋も初めて見るものだ。
 
 側らには昨日海斗に貰ったペンギンのぬいぐるみ、そして昨日のワンピース姿。

「私……昨日あのまま……!?」

 昨夜、海斗がシャワーを浴びている間に寝てしまったのだ。
 全てを思い出し、一気に意識が覚醒する。
 
 どう考えても、あの流れの後、寝てしまったのは致命的なのでは……?
 スイートルームまで準備してもらっておいて……

「ああぁぁ……」

 綾は横たわったまま頭を抱える。
 
 海斗の姿は無い。空気の読めなさすぎる綾に呆れて別の部屋で寝たのだろう。
 
 激しい自己嫌悪に泣きそうになりながら起き上がり、ベッドルームの洗面コーナー寝乱れてないかチェックし、寝癖を必死に整える。
 
 最低限の身支度を整え終え、メインルームに行ってみると、さらに向こうのドアが少し開いており、海斗の後姿が見える。
 
 この人と、本当の恋人になったんだな……。
 
 自分のやらかした事は棚に上げ、ドアの隙間から見える逞しいガウン姿の背中にドキドキする。
 どういう顔をすれば分からないものの、起きたことだけでも伝えようとドアに近づくと、彼はどうやら電話をしているようだ。
 
 恐らく仕事の電話だろう。邪魔をしてはいけないと静かに戻ろうとしたのだが、聞こえて来た言葉に思わず足が止まってしまった。
 
「分かりました。明日、発ちます……はい?――あぁ、わかっていますよ。付き合う女性くらい自分で選びます。僕は社長ですからね。それに三笠の一員としての自覚もあります」

(――え、社長?……三笠?)

 足が縫い留められたようにその場から動くことが出来くなる。
  
「ご安心ください。僕は経営者として会社の利益に繋がる女性を選びますよ。メリットにならない結婚なんて――全く意味が無い」
 
(……!)

 経営者、会社の利益……メリット、重いキーワードが綾の脳内をグルグルとかき混ぜる。
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