氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 彼は最初から自分を騙すつもりだったのだろうか……三笠の一員ってどういう事だろう、と様々な疑問はある。
 
 でも、今、綾の頭に浮かんでくるのは……
 
(――悲しそうな、顔してた)
 
 綾が放った言葉に動きを止めた海斗の傷ついたような顔。
 
 少なくとも彼が自分に嘘を付いていた事は間違いないはずだ。
 それなのに、自分が彼にあんな顔をさせてしまったという罪悪感が重くのしかかる。
 
(とにかく、家に、帰ろう……)
  
 今日が休日で良かった。こんな状態で仕事なんて出来なかっただろう。
 綾は地下鉄の駅に向かって歩き出した。
 
 その時だった。
 
「綾――酷い顔だな。もうアイツに捨てられたのか?」

 あぁもう――本当に、朝から最悪だ。
 
 目の前に立っていたのは赤井だった。
 
 
 
 綾はフラフラとアパートに帰りつき、ベッドに体を投げ出し倒れこむ。
 正直に言って、本当に疲れた。
 
 心の中も、目の粗い鑢で乱暴に擦られたように傷ついている。
 
 ヒルズで声を掛けて来た赤井は綾を待ち伏せしていた訳では無く、三笠建設との打ち合わせの為にベリーヒルズに来ていて偶然綾を見かけたらしい。
 
 話すことは無いと、立ち去ろうとする綾を赤井は制止して言った。

『お前、凄いの捕まえてたと思ってたんだが、もう捨てられたのかよ』

『どういう事……?』

『知らなかったのか?アイツ、間宮海斗は、三笠ホールディングスの会長の孫だって』

『会長の……孫?』
 
 その後赤井はペラペラと教えてくれた。

 間宮海斗は謎の多い人物として三笠ホールディングス内で知られている。
 豊富な知識、卓越した能力と、冷静な判断力。周りを従えさせるカリスマ性まであり、若いながらかなりの権力を持っている。
 
 彼の本当の素性は明らかになっていない。三笠の元で一流高校からアメリカの大学に進学し博士号を取得して帰国後、三笠ホールディングスに入社している。
 さらに三笠の本家に出入りする姿や会長や社長らと会食する姿もよく目撃されており、海斗は
現会長源一郎の妾の間に生まれた子が海斗の母というのが定説になっている。
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