氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
「彼」の正体
 ちょっとしたハプニングがあったものの、結果的にパーティは盛況の内に終わった。
 
 綾にとって驚く事しかないような時間だったが、更に言葉を無くしたのは、海斗が準備を進めていたという『新会社』が無事発足したことが披露された事だ。
 
 海外、特に中東の貿易関係を一手に扱うこの会社は、三笠ホールディングスや国と協力体制を取りながら、中東のある国のエネルギー資源を始め、様々な貿易を通じて莫大な利益を得る事になる――らしい。
  
 社長として壇上で堂々と挨拶する海斗を見ながら、今こそオスカー像を持つタイミングだな、と思った。そんなくだらない事でも考えていないと、腰が抜けて立ってられなかったのだ。
 
 海斗はそんな綾を慮ってか、登壇する時以外は片時も彼女から離れず、ガッチリ腰に手を回し続けた。
 
 ちなみに招待客には全員に手土産としてMANOきりこのタンブラーが配られていた――
  
 
 パーティ終了後、訳の分からない内に綾は海斗と城山、そしてラウファル共にビル56階にあるVIP専用ラウンジ来ていた。

 落ち着いた雰囲気の広い空間で、質の良い調度や美術品も並んでいる。彼ら以外だれも居ない貸し切り状態だが、ラウファルが座るソファーの後方にはいつものお付きの男性が控え、ラウンジにはSPの方々が点在して、ラウファルの安全を確保している。
 
 白い大理石のローテーブルを挟むようにラウファルと対面で座り、綾の隣には海斗が座る。
 隣、と言うか、ほとんどくっ付いている気して落ち着かないのだが。
  
「海斗、お前も『ヘタレ』だな。ヘタレとは臆病者に使う言葉だろう?知っているぞ」
 出された紅茶を美味しそうに飲み一息付くと、ラウファルが口を開いた。

 そういえば年のせいか最近は酒類より甘いものや、紅茶が好きだと言っていた。昨日のランチでの話だが。パーティ会場で見せていた他人を従えるのが当たり前という威圧的は雰囲気は鳴りを潜めている。

「あなたに言われたくありません。それに、僕に隠れて綾に接触していたなんて、知りませんでした。勝手な事をしないで頂けますか」
 
 海斗も躊躇することなく憮然として言い返している。
(え、この二人の関係って……?)

 困惑する綾の耳に思いがけない答えが飛び込んできた。
 
「孫の心配をして何が悪い」

「え、孫!?」

 思わず大きな声が出てしまい、広いVIPラウンジに響き渡る。
 
「――綾、今まで黙っていてすまなかった。全部話すから聞いて欲しい」

 海斗は申し訳なさそうに、整った眉を下げると話し始めた。
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