厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「お考え直しください。そのようなことをなされば、大内家の評判に泥を塗るのみならず、貞子さまもまた」


 「自らの恥を曝す結果となると申すか」


 私の言わんとしたことを先に述べられた。


 「恥を曝していると申せば、今も同じではないか。形だけの正室として遇されるのはつまり、寵愛を側室に奪われてもなお立場にしがみついているのだと、陰で笑われているようなもの」


 「誰がそのようなこと」


 「残念ながら、それが事実ではないか」


 「……」


 貞子さまの申される通り。


 大内家のご正室は貞子さまであるが、嫡男・義尊さまを産んだ側室のおさいの方のほうが、次期当主の母としての地位を確立しつつある。


 「子を産めぬ正室の務めは、側室の子とはいえその子を嫡男として立派に育て上げること。だが私には、そのような務めは到底耐えられぬ」


 「貞子さま」


 「これ以上耐えて不本意な務めを続けるくらいならば、いっそのこと何もかも投げ出して、生まれ故郷の京へ帰りたい」


 「私どもが貞子さまをお支えします。だから大内家を……、この国を見捨てるなどと申されないでください」
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