厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「それにしても、陶どのはその若さで大内軍総大将を務め、音に聞こえた尼子軍を撃退するお活躍とは。我が嫡男・隆元も陶どのにあやかって、優れた武将に成長してほしいものです」


 少し前から雪はみぞれに変わり、尼子軍追撃を断念した私は毛利の居城に招かれることとなった。


 「あちらが総大将の陶どのだ」


 「実にお若い。加えて噂以上の美男で」


 「まさに、水もしたたるいい男」


 初めて私の姿を目にした毛利の家臣たちが、あれこれ語り合っている。


 賞賛されるのは喜ばしいことではあるが、御屋方様に寵愛されるのがこの容姿ゆえであると思われることに若干苛立ちも感じる。


 御屋方様が私を重用するのは容姿によるもののみならず、実力も有するからであるということを世間に認めさせるためには。


 武将としてさらなる功績を挙げなければならない。


 私は知らないうちに、少しずつ焦り始めていたのだった。
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