厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 「誰もがお前のことを褒め称えておる。わずか二十歳にもかかわらず豪胆なる武者ぶりで、見事尼子の精鋭どもを蹴散らしたと」


 山口の大内館に帰還した夜。


 この日ばかりは周りの目も気にせず、御屋形様は私を自室に招きいれた。


 「お前が誉められると、私も鼻が高い。何しろお前は私が育て上げた最高傑作なのだから」


 御屋形様は私の髪を慈しむように幾度も撫でるが、


 「……二十歳を迎えた正月に、私はよりにもよって戦場にて、むさ苦しい日々を過ごしておりました」


 長きにわたって御屋形様に会えなかった寂しさが転じて。


 ついふてくされた態度を取ってしまう。


 「それが大内家重臣・陶家当主の定めだ。耐えてくれ」


 御屋形様の声は、私に対する詫びに満ちている。


 「その代わり……。共に山口にて過ごせる時は、離れずにいつでもそばにいてやるから」


 そして私は、御屋形様の腕の中。


 「戦で怪我などしておらぬか。安芸の地の寒さは身に堪えたか?」


 久しぶりに私の体の感触を確かめる。
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