厳島に散ゆ~あんなに愛していたのに~
 ……御屋形様の嘆きはあまりに深く、依然として政務にも復帰なさらない。


 気持ちが落ち着くまでと思っていたのだが、いつまでも大内家当主としてのお勤めを放棄したままでは、諸方面に影響が及ぶ。


 「御屋形様、お辛いのはお察しいたします。ですがそろそろ公務に復帰いたしませんと。尼子との一件の戦後処理も滞っていますゆえ」


 意を決して私は述べた。


 「全てお前に任せる」


 そう答えるのみで、御屋形様は部屋から出ようとしない。


 「お気持ちは分かりますが、大内家当主としての勤めを放棄したままでは、晴持さまも浮かばれません」


 いつもの調子で、御屋形様を叱咤激励した。


 今までの御屋形様だったら、穏やかに微笑んで私の言葉を受け入れてくれただろう。


 そういう油断というか甘えがあって、つい私は出過ぎた真似をしてしまったようだ。


 「お前に何が分かる」


 無表情のまま、御屋形様は私に言い放った。


 「大切に慈しんで育て上げた我が子を失った親の気持ちなど、お前に分かるものか!」


 未だかつて目にしたことのないような険しい表情で、御屋形様は私を怒鳴りつけた。
< 98 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop