御曹司、家政婦を溺愛する。

「私の行動でご気分を悪くされたのなら、申し訳ございません。お母様より、ご子息様の様子を毎日ご心配されておりますので、ご自宅に伺えないのでしたらせめて私のできることをしようと……」

「母さんはまだ解約してなかったのか」
と、彼は呟いて大きなため息を吐く。
「本当に、申し訳ございません」
ここで仕事を失うわけにはいかず、私は頭を下げ続けた。

何も言わない新堂隼人に、深く頭を下げたままの私。

「頭を上げろ」
言われるままに、頭を上げた。
その顔はさっきの不機嫌よりは、少し照れ臭さがある気がした。

「佐藤、来週から来い。仕事をくれてやる」

「お前は王様かっ!」と突っ込みたくなるような上から目線の言葉を残して、再びオフィスビルの中へと消えていく御曹司。
その肩幅の広い後ろ姿を見ながら、私はホッと肩の力を抜いた。

今までレジデンスに来ることを嫌がっていた彼が、手のひらを返したように「仕事をくれてやる」とは。一体どういう風の吹き回しか知らないが、これでやっと家政婦としてのスタートラインに立てたことに、今だけは胸を撫で下ろすことにした。



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