御曹司、家政婦を溺愛する。

「ああ、俺。家政婦の契約内容に、オプションで昼飯付けたいんだけど……ああ?会社に来い?」

どうやら相手は幸恵夫人のようで、昼食を作ってもらうくらいなら出社しろ、と言われているらしい。
そう思っていると、
「あんな話、俺は認めない。白紙にすると公表するなら会社に行ってやるよ」
と言って、通話を切ってしまった。

そして、私と目を合わせる。
新堂隼人は眉間にグッと皺を作り、唇を歪めて渋い顔をする。
整っている顔で渋い顔をしても、やっぱり整っているんだと思った。

「佐藤、腹減った」
という言葉のすぐ後に、「ぐううぅ」と空腹を訴える音が聞こえてきた。
どんなにイケメンでも腹の虫には勝てないのか、とクスッと笑って、私は冷蔵庫の扉を開けた。

「……庶民のお昼になりますが、かき玉うどんでいいですか」
「庶民なんて強調するな。金持ちは毎食ご馳走食ってるわけじゃない。高校の時の俺の昼飯、毎日購買のパンだったの覚えてねぇの?」
「……知りませんよ。一緒に食べてたわけじゃなかったんですから」

チラリと浮上した高校の思い出話に、心の底がふわっと暖かくなった気がした。
家政婦としてここで初めて会った日、新堂隼人は私を他人のように扱ったが、本当は覚えていてくれたことに嬉しくなった。

高校の頃、新堂隼人に許嫁が出現して彼に恋する女の子たち共々、私も失恋してしまったが、今はもう思い出のままで大人になった新堂隼人として接しようと思った。
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