御曹司、家政婦を溺愛する。

事務所に戻ってみると、西里マネージャーと数人のスタッフが一斉に私に振り向いた。
「ただいま……です。何かあったんですか」
と、私はテーブルに荷物を置いた。
西里マネージャーは、
「これ、多分あなたにだと思う」
と言って、自分の上半身が隠れてしまうくらいの巨大な赤いバラの花束を両手で持ち上げ、ドンッという迫力で私へ突き出した。
「ええ?」
一体誰からこんな花束を、と身に覚えがないだけに驚くばかりだ。
西里マネージャーから「重いから早く持って」と言われて、オロオロと戸惑いながら抱えるようにして受け取る。ふわりとバラのいい香りが漂った。

「宅配にはこの近くの花屋から発送されたものですね。でも花屋から小栗ハウスサポートの佐藤鈴さん宛て、というだけで誰からの依頼なのかが書いてないです」
スタッフの中にいた藤村くんが送付伝票を見て教えてくれる。「一度お店に確認してみたら」と言われて伝票の番号に電話してみた。

赤いバラの花束の中に、よく見ると一輪だけ花びらが青いバラがある。このバラになにか意味があるんだろうか、と思った。

フラワーショップ花姫の店長さんが言うには、この注文は従兄弟がやっている姉妹店があるバルセロナからのものだという。店長である従兄弟は「日本への注文なら、日本の姉妹店から発送した方が新鮮なバラが届くよ」とアドバイスしたら「それで頼む」と言われ、注文が回ってきたらしい。
「バルセロナって……スペイン?!」
「依頼主と料金の振り込みの名前には「スイートベル」と書いてあった、か。会社ですかね?」
花姫の店長さんとの会話はスピーカーにしてあるので、みんなにも聞こえていた。
「心当たりはありませんか?」なんて聞かれてしまい、なんて答えていいのか困ってしまった。
< 70 / 83 >

この作品をシェア

pagetop