あやかしあやなし
「でもあまり力を使うと危ないぞ」

 妖狐の力を持ってすれば、京までそう時もかからないのだろうが、それこそ人外である証しになる。陰陽師に気付かれると厄介だ。

「だから、万が一バレたって大丈夫なおいらが行くのよ」

 えへん、と胸を張る小丸だが、なおも惟道は難しい顔のままだ。それに小丸は、にぱっと笑い、惟道の腕をぱしんと叩いた。

「惟道はほんと、心配性だよね~。まるで安倍章親みたいだよ」

「俺はあそこまで人のことなど考えない」

「うん、でも人外に対しては、同じぐらい気にかけるよ」

 惟道自身は気付いていないようだが、人に対しては恐ろしく無表情の無関心だが、こと人外に対していえば普通の人間関係と変わらない態度だ。まだまだ乏しいものの、表情も豊かになる。

「おいらたちにとっては、良いことだよ~」

 へらへらと言い、小丸は厨から座敷に戻った。そして端に積み上げてある葛籠の中から、竹籠や組み紐など、作りためたものを風呂敷にまとめていく。
 土地だけはあるので食い物はあまり困らないが、着物などの生活用品は買わなければならない。そのため、暇があれば小物を作って、ある程度たまったら、それを売りに行くのだ。

「行商に行くのか?」

「ついでだよ。折角都まで行くんだったら、用事も済ませちゃいたいし」

「なら俺も行こう」

「だめだめ。おいらの足に着いて来られないでしょ」

 いつもであれば、普通に人の速度で都に向かうが、今はこれでも急いでいるのだ。

「危ないと思ったら、帰ってくるんだぞ」

「大丈夫だって」

 風呂敷包みを抱え、小丸は外に出た。

「じゃあ行ってきます」

「章親によろしくな」

 惟道にぶんぶんと手を振ると、小丸は前屈みになって地を蹴った。姿こそ人のままだが、まるで獣のようだ。そのまま小丸の姿は、あっという間に掻き消えた。
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