あやかしあやなし
ーーー壁を飛び越えちゃおうかしらーーー

 この程度の築地塀を越えることなど簡単だ。結界の気配も感じるが、妖狐には効かない程度のものだし、入ろうと思えば簡単に入れる。
 だが、妙な神気を感じるのだ。

ーーー陰陽師は御霊とかいう守護神を降ろすとかいうけど。にしては凄い気だな。安倍家だから?ーーー

 感じる神気は単なる人が御せるとも思えないほどの強さだ。生半可なものではない。
 そもそも本当の神様など、人に従うものではないはずだ。御霊とは、もっと弱い、何なら小丸よりも弱い、『良い物の怪』ぐらいなものなのだ。

 だが今、門の内から感じる気は、そのようなものではない。神に近い妖狐の小丸が躊躇うほどの圧を感じる。

ーーー入れないこともないんだけど。正体のわかんない気の中に飛び込むのは嫌だなぁーーー

 ぶつぶつ思いながら門の前を行ったり来たりしていると、ふと己と同じような気を感じた。ん、と顔を上げると、一人の青年がこちらに歩いて来ている。

ーーーうむむ?ーーー

 まじまじと見てみても、人と変わらない。狐が化けているわけでもなさそうだ。
 青年は少し先で足を止めた。少し怪訝な表情で小丸を見る。

「……その家に、何か用か?」

 問いながら、青年の手がゆっくり動く。その動きを見、小丸は彼が陰陽師だと気付いた。

「あ、てことは狐を従えた陰陽師か」

 ぽん、と手を叩く小丸の声に、ゆらりと彼の気が揺れた。

「おいらは小丸。惟道の使いだ。安倍章親に用がある」

 陰陽師なのであれば、噂の物の怪狩り中なのかもしれない。だが同じようなものを従えているのであれば、小丸の気もわかるはずだ。
 それに、青年もここに向かって来ていた。ということは、章親のことも知っているだろう。
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