あやかしあやなし
「ちょっと楽しみだねぇ」

 くふふ、と口に手を当てて、小丸が笑う。そして立ち上がると、厨に行った。

「明日用の握り飯を作らなくっちゃ。惟道、おいらはお稲荷さんがいい」

「贅沢を言うな」

 言いつつ惟道も立ち上がり、厨に吊るしてある大根を取った。都に行くことに異存はないようだ。烏鷺の怪我から察するに、妖気を放っていればかなり危険なはずなのだが。

「あの者は、かなりの術師なのか?」

 物の怪狩りの術師(?)と対等に渡り合えるほどの腕の持ち主なのであれば、確かに心配はいらないのであろうが。烏兎が和尚に問うてみると、和尚は軽く肩を竦めた。

「いや、惟道はそういった術というものは、とんと使えん」

 さらっと言う。烏兎の顎が、かくんと落ちた。

「そ、それならば、みすみす烏鷺を危険に晒すようなものではないか!」

「どうであろう? 術自体は使えぬが、あれは存在そのものが普通でない。それが何よりの術かもしれぬぞ?」

「……?」

 訝しげに見る烏兎に、和尚はただ、にんまりと笑うのみなのだった。
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