タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

厳しい現実

「うわぁ……」

 ずっと王宮の部屋に閉じ込められていたのと、常春の国で雪がないのとで自覚がなかったが、ランの服装を見て今はまだ冬だったと気づいた。
 だから、と家にあった鞄に母親の服や下着を詰め、見つけた灰色のマントを着て。今度はしっかり鍵をかけて、アガタは生家を後にした。そして、広がる景色に思わず声を上げた。
 エアヘル国にも、国境近くは森があったが――それでも道はあったし、所々には集落もあった。
 しかしメルの背中に乗り、上から見ているせいもあるが、国の向こうは鬱蒼とした緑だけが延々と続いていた。今のところ集落らしきものは見えないが、獣人達はどこに住んでいるのだろうか?

「俺らは、森の真ん中に住んでるんだよ。不便だが反面、捕まることもない」
「……捕まる?」
「人族だと、奴隷になるのは犯罪者くらいだけどな。人族以外だと、何もしてなくても奴隷商人に捕まると奴隷にされる。獣人は見た目がいいし、力もあるからって人気があるらしいな」
「そんな……」
「アガタ様……貴様、アガタ様はエアヘル国を出たことがないのだ! 少しは考えろっ」
「ん? あ、悪い……けどなぁ」

 あっさりととんでもないことを言われ、アガタはショックを受けた。虐げられこそしていたが――エアヘル国では、奴隷制度など聞いたことがない。だから、奴隷(それ)が国外では常識なのだと言われて驚いた。
 そんなアガタの様子に気づいたメルが、ランを叱る。しかし、謝りこそしたが悪びれることなく、ランは言葉を続けた。

「人族の国・ダルニア国だと常識だ。お前は人族だけど、こんな便利な鳥もどきと一緒にいて、しかも言うことを聞かせられる。のほほんとしてたら騙されて、こき使われるぞ?」
「あ……」
「鳥もどきはともかく、アガタ様が騙されるだと!? 私が側にいるのに、ありえん!」
「いや、だから。普通の鳥はもちろんだが、魔物も喋らないから……ん? そうなるとお前って、何なんだ?」
「「…………」」

 今更ながらに尋ねられて、メルもアガタも黙った。
 色々と教えてくれて、親切だとは思う。しかし世の中が物騒だと知った今、メルが精霊だということや、アガタが元聖女だということがバレたらマズいかもしれない。エアヘル国が穏やかな国だと解ったが、虐げられた身としては戻る気がない。そうなると、これからは気を引き締めていかなければ。

「そーそー! その調子……あ、着いたな」

 そんなアガタ達に気を悪くすることなく、逆に笑って頷いてくれたランが、前方を指差した。
 その方向に、アガタが目を向けると――確かに森の中央が、ポッカリ拓けていた。
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