タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

温かさは正義

 食べていないという言葉があったので、スープなどシンプルなものかと思ったら――麦を牛乳らしきもので煮て、ハーブらしきものが振ってあった。

「どうぞ……あ、胃が驚かないように、ゆっくり召し上がれ?」
「はい」

 コニーの言葉に頷いて、湯気を立てるそれを掬ってアガタは口に運んだ。途端に蜂蜜とミルクの優しい甘さ。それからハーブの味と温かさが、口いっぱいに広がった。

「……おいしい……」

 味だけでも美味しかったがアガタが久々に食べる、温かい食べ物だった。見た目はリゾット、食感はコーンフレークという感じか。
 ついがっつきそうになったが、先程コニーに言われたことを思い出し、ゆっくりしっかり味わう。ハーブらしきもの、と思ったのはシナモンのような匂いと味がして、アガタは前世のある食べ物を思い出した。

「八つ橋……」
「? おかわりもありますからね」
「はい」

 頷きながら気づけば木の器が空になり、その後二回おかわりした。そしてお腹いっぱいになったところで、アガタは奥の部屋――トイレらしきものと、たらいが置いてあるところへと連れていかれた。

「さあ、お風呂に入りましょうね」

 そう言うと、コニーは食事を作る時に一緒に用意していたのか、湯気を立てる鍋を数回持ってきて床においたたらいに注いだ。そして先程、ロラに言われた通りはちみつを数匙、あとラベンダーのような香りのするオイルを垂らした。
 服を脱ぎ、まずは体を洗うことにする。
 ……実は、エアヘル国の王宮では夜遅かった為という理由で、数日に一度冷めたお湯で体や髪を洗うだけだった。かろうじて石鹸もあったが、月に一度しか与えられないので少しずつ使っていた。
 しかしここでは、蜂蜜を入れて石鹸まで作っているらしい。
 渡された石鹸を今までのことを考えて少しずつ使おうとしたが、それを見たコニーが躊躇せずタオルで泡立て、擦ってきたり髪を洗ってきたので恐縮しつつも甘えることにした。そして洗い流したところで、再度オイルの香りがするお風呂に浸かったら、一気に体が熱くなった。あまりの心地好さに、全身から力が抜ける。

「あったかい……それに、いい匂い……」
「これも、語り部の知恵なのですよ……さあ、泡を流しましょうね」
「え……あ、はい……」

 何だか、ハーブを前世の地球のように使っていると思った。
 引っかかったが、お風呂で身も心も温まっているうちに、思考がふやけて――気づけば、アガタはお風呂で寝落ちしていた。



 メルは、黙って鳥のフリをしていた。そしてぐっすり眠っているアガタが、食材を運んできたランにより、寝台に運ばれるのを見ていた。

「……ヤツハシ、かい」

 それから、アガタが呟いた言葉にロラが反応していたことも。
< 14 / 21 >

この作品をシェア

pagetop